2012年4月21日土曜日

2G・3Gデュアルシステム通信ソフトウェアの開発 | NEC技報 | NEC


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福島 治 ・佐渡 雅樹 ・伊藤 篤史 ・有門 智弘

要旨

本稿では、NECエレクトロニクスが開発したMedity2に搭載した2G・3Gデュアル通信システムにおける、デュアルシステム通信ソフトウェアについて紹介します。通信ソフトウェアは、GSM技術の導入、並列タスク動作によるデジタルベースバンド部の制御、状態に応じた省電力制御を実施し、2G・3Gデュアル通信システムと省電力化を実現しています。

キーワード

  • 携帯電話
  • W-CDMA
  • GSM
  • デュアルシステム
  • 低消費電力

1. はじめに

近年、携帯電話は日本国内だけではなく海外も視野に高機能・高性能化が展開されています。日本国内では、第3世代携帯システムの1つとしてW-CDMA (Wideband Code Division Multiple Access) が普及しています。しかし、海外においては、第2世代携帯電話システムであるGSM (Global System for Mobile Communication)しか使用できない地域も多く、World-Wide携帯電話端末としては、W-CDMA/GSMデュアルモード機能が求められています。本稿では、NECエレクトロニクスによるW-CDMA /GSMデュアル携帯電話ソリューション「Medity2」の通信ソフトウェアについて紹介します。

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2. 携帯電話技術動向

海外における携帯電話動向は、欧州・アジア太平洋地域・中近東・アフリカ・北米などでW-CDMA方式が本格的な普及期に移行しています。しかし、現時点では、第2世代通信方式であるGSM方式が約80%を占めています(図1)。そのため、World-Wide携帯電話端末としては、W-CDMA/GSM両方の方式に対応したデュアルモード機能が求められています。

「Medity2」では、高機能W-CDMA /GSMデュアル携帯電話システムを実現しています。以下に主要機能・要件を示します。

・ W-CDMA/GSM (900/1800/1900帯域) のデュアル対応

・ 優先ネットワーク自動選択/ユーザ主導選択機能

・ W-CDMA/GSMシステム切り替え/国際ローミング

・ テレビ電話機能

・ 3D描画ゲームアプリなど高機能アプリケーション対応

・ アプリケーション処理部と通信処理部を1チップ化

・ W-CDMA/GSMベースバンド処理部を統合で、チップ実装面積の削減・省電力化・低コスト化


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「Medity2」は、高性能なアプリケーション処理部と通信処理部を1チップで実現しています。通信処理部は、W-CDMAベースバンド処理部とGSMベースバンド処理部を統合しチップ実装面積の削減・省電力化・低コスト化を図っています。


図.1 世界の携帯電話加入者動向
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3. デュアル携帯電話システムの概要

デュアル携帯電話システム「Medity2」の構成、及び通信処理部の特徴を以下に示します(図2)。

・ 3GPP Release99対応

・ W-CDMA/HSDPA機能 (Category6) 、HSUPAインタフェース機能を内蔵

・ GSM/GPRS/EDGE機能 (Class12) を内蔵

「Medity2」は、アプリケーション処理部と通信処理部の2つのブロックで構成されています。ACPU (Application CPU)、CCPU (Communication CPU)が、各ブロック全体の制御を行っています。アプリケーション処理部は、LCD・キーパッド・マイクスピーカなど各種周辺ハードウェアが接続され、カメラ・音声コーデックなどのミドルウェア処理部が搭載されています。通信処理部は、CCPUと各ベースバンド処理部で構成されています。W-CDMAベースバンド処理部は、HSDPA (High Speed Downlink Packet Access) 機能に対応しています。更に、HSUPA (High Speed Uplink Packet Access) インタフェース機能を内蔵し、HSUPA機能拡張が容易に対応可能となっています。

GSMベースバンド処理部は、他メーカ製IP (Intellectual Property) を導入し、GSMに加え、2.5世代通信システムであるGPRS (General Packet Radio Service) 、その後継技術であるEDGE (Enhanced Data GSM Environment) に対応しています。本IP導入により、「Medity2」は短い開発期間で高品質なGSMシステムを導入し、デュアル携帯電話システムを実現しています。


図.2 デュアル携帯電話システム「Medity2」構成
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4. デュアル携帯電話システムの実現

デュアル携帯電話システムは、W-CDMA及びGSMの各ネットワークへの単独接続機能(シングル動作)に加え、以下機能が要求されます。

・ W-CDMAとGSMネットワークを自律的に選択

・ W-CDMAとGSMシステム間ハンドオーバ

・ W-CDMAに接続時のGSMの通信品質測定

・ GSMに接続時のW-CDMAの通信品質測定

・ 省電力機能


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通信ソフトウェアを実現するためには3つの課題があります。第1の課題は、他メーカ製IPを導入するためにインタフェースを統一する必要があります。第2の課題は、システム間のハンドオーバや通信品質測定を実現するために、W-CDMA/GSM間のタイムベース同期を行う必要があります。最後に、省電力制御をソフトウェアで実現する必要があります。

4.1 通信ソフトウェア構成

通信ソフトウェアブロック図を以下に示します(図3)。

・ Protocol Stack:デュアルプロトコル制御

・ GSM LL1 (Logical Layer1):GSMプロトコル制御

・ W-CDMA LL1:W-CDMAプロトコル制御

・ GSM DBB (Digital Base Band): GSM送受信制御

・ W-CDMA DBB: W-CDMA送受信制御

デュアル携帯電話システムは、W-CDMA及びGSMそれぞれのレイヤ1プロトコル処理を担当するLogical Layer1(以下、LL1と略す)ソフトウェアが同一CPU上で動作し、各LL1ソフトウェアはRTOS (Real-Time Operating System) 上のタスクとしてそれぞれが動作しています。タスク間通信は、RTOSの持つタスク間通信機構を利用しています。

「Medity2」ソリューションは、GSMシステムに他メーカ製IP を導入しつつ低消費電力なデュアル携帯電話システムを実現するために以下の機能を実装しています。

・ W-CDMAソフトウェアと他メーカ製IPを接続するためのプロトコルアダプタの実装

・ W-CDMA/GSM送受信制御クロック共通化

・ DAC (Digital to Analog Convertor) 回路共通化

各LL1タスク間のインタフェースは、標準の仕様が存在しないため、他メーカ製IPとW-CDMAソフトウェア間のインタフェースを統一する必要があります。そのため、GSM LL1タスク内にプロトコルアダプタを設け、インタフェースの統一を実現しています。このプロトコルアダプタにより、W-CDMAソフトウェアに影響を与えずにGSMシステムの導入を実現しています。

W-CDMA/GSM送受信制御クロック共通化は、PLL回路の削減を行うため、W-CDMAとGSMベースバンド処理部が同一の基準クロックで動作するようにソフトウェアで制御を行うことで実現しています。DAC回路共通化は、DAC回路の排他制御をソフトウェアで行うことで実現しています。


図.3 デュアル携帯電話システム(Medity2)ソフトウェアブロック
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4.2 並列タスクによる連携動作の実現

デュアル携帯電話システムでは、通信品質測定、システム間ハンドオーバを実現するため、W-CDMAとGSMの両ソフトウェアのタイミング設計が重要となります。W-CDMAとGSM通信品質測定は、お互いの通信に干渉しないよう空き時間を利用して行うため、限られた時間内に測定を行うタイミング制御が必要であり、W-CDMA/GSM両LL1タスクの並列動作によって実現しています。

システム間ハンドオーバを実施するには、システム間の通信品質測定が必要となります。W-CDMA LL1タスクとGSM LL1タスクは、それぞれのシステムフレーム単位時間をベースにお互い独立したタイミングで動作します。デュアル動作時は、W-CDMA/GSMどちらのネットワークに接続しているかに応じてマスター/スレーブ関係が存在します。通信品質測定は、マスター側のLL1タスクがスレーブ側の LL1タスクに対して測定要求を出すことで実現しています。

W-CDMA通信中におけるGSM通信品質測定は、W-CDMA LL1タスクがマスター、GSM LL1タスクがスレーブとなり、10msの通信フレーム中に設けられたTransmission Gapと呼ばれる区間で実施します(図4)。

W-CDMA通信フレームの単位は10ms、GSM通信フレームの単位は4.615msとなっています。W-CDMA LL1タスクは、測定タイミング情報を作成し、GSM LL1タスクに通知します。

測定タイミング情報の交換は、それぞれのシステムが独自にもっている時間ではなく、共通時間単位を用いて行います。両LL1タスクは、共通時間単位からそれぞれのシステムの時間単位に変換することで、測定タイミングを正確に算出し、ベースバンド処理部への測定制御のスケジュールを行っています。

通信ソフトウェアは、マスター/スレーブ動作を切り替えることができる構造になっているため、デュアルシステムとして動作するだけではなく、マスター側システムが単独で動作することにより、W-CDMA単独、GSM単独の各構成を同一ソフトウェアで実現することができます。


図.4 デュアル携帯電話システム通信品質測定の実現
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4.3 ソフトウェアによる消費電力削減

デュアル携帯電話システム (Medity2) は、クロックやPLLについて細かな制御機能が搭載されています。通信ソフトウェアは、ベースバンド・ハードウェア部のクロックを制御することによりシステム動作の「停止」「再開」を行い、消費電力の削減を実現しています。チップ実装面積削減、消費電力削減のためにハードウェアを共通化し、DACの排他制御をソフトウェアにより実現しています。


また、他メーカ製IP とW-CDMAベースバンド処理部の基準クロックは異なっていましたが、PLL回路を削減するため、ソフトウェアによる差分吸収制御を行い、基準クロックの統一を実現しています。

携帯電話は、待ち受け中に着信通知の受信や通信品質測定を数msで処理します。通信ソフトウェアは、通信が不要な期間において、ベースバンド処理部の動作に必要な高速クロックを停止し、低速クロックで基地局とタイミングを維持する間欠受信動作を行います。また、通話時における他システムの通信品質測定は、品質測定を行う時間のみクロックをオンとし、不要な時間についてはクロックをオフとします。

通信ソフトウェアは、ハードウェア資源の排他制御、異なる基準クロックに対する差分吸収、携帯電話の状態・通信品質測定の有無に応じたクロック制御の一元管理化を行っています。この一元管理により、デュアル携帯電話システム全体の省電力制御を実現しています。

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5. まとめ

以上で述べたように、プロトコルアダプタによる他メーカ製IPの導入、W-CDMA/GSM間のタイムベース同期、省電力制御をソフトウェアで実現することで、市場ニーズに応える高機能デュアル携帯電話の実現に寄与しています。最後に、本ソリューションの開発にあたり、開発関係者の方々にご協力いただきましたことを心より感謝いたします。

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参考文献

  1. GSM World ;

執筆者プロフィール

福島 治
NECエレクトロニクス
第二SoC事業本部
SoCソフトウェア事業部
主任

佐渡 雅樹
NECエレクトロニクス
第二SoC事業本部
SoCソフトウェア事業部
主任

伊藤 篤史
NECエレクトロニクス
第二SoC事業本部
SoCソフトウェア事業部

有門 智弘
NECエレクトロニクス
第二SoC事業本部
SoCソフトウェア事業部

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